大切なものは

第 30 話


「目標地点に停車後、セシルとロイドは他のスタッフと共にランスロットの点検を。最悪他の2騎から部品を移動することになるかもしれない。・・・シュナイゼル殿下の機体を壊す可能性は限りなく低いが、どんな細工がされているかわからないから、最新の注意を払って整備を」
「・・・この作戦を妨害する者がいると?」
「皇帝陛下が何をお考えかは解らないが、この裏工作を行った者は、我々の死を望んでいる。作戦の妨害など些末なことは考えていないだろうな」

ざわざわ、と、ざわめきが広がる。
それとほぼ同時に車体は動きを止めた。

「指定ポイントに到着しました」
「よし、では後続のトレーラー2台はこの左右に着け、作業を始めろ。エナジーの残りは少ない。手早く行え。左側のトレーラーのKMFは降ろす。悪いが、今回はその機体の出番は少ない。エナジーパックの回収は忘れるな」

KMFが降ろされたトレーラーには毛布などを集め、食糧や銃火器など必要な物資もすべて集められた。3台に分かれているより、1台に集まることで暖房にかかるエナジーを少しでも抑える。なにせここは雪国。暖房なしでは凍死してしまう。
KMFのエナジーはニューパックだったものが、すべてエナジーが尽きかけているものに入れ替えられていた。当然、予備はない。今セシルたちは僅かなエナジーを全てランスロットのエナジーパックに移動していた。
食料も水も手前にあった箱以外すべて空だった。銃火器も自分たちで所持していたもの以外は弾薬が抜かれていた。そんな惨状に、スザクの直属となったシュネーとレドは怒りをあらわにしていた。エナジー節約の為毛布にくるまり、車内の温度を限界まで落としているため息も白くなる。それがさらに怒りを沸き立たせた。

「こんな状態では、戻る事も出来ない!」

シュネーの言葉通り、戻るにもエナジーが足りない。
味方の基地よりも敵の基地の方がはるかに近い。そんな場所まできて、気付くなんて。再度調べて解ったのは、表示パネルの細工は出立時満タンに見えるようになっており、後戻りできない距離に達した時点で正常な表示になる様になっていた。指示された作業を終えた技術者たちも戻ってきたが、その顔は絶望に染まっており。暗く寒い車内というのもあってまるでお通夜のような空気になっていた。唯一ロイドが疲れたと言って早々に寝ているぐらいか。ずぶとい神経だなと羨ましく思う。しんしんと降りつもる雪の事もあり、定期的に誰か彼かが外に出て、車の周りを除雪するだけで、それ以外何もできない。救援信号を出せば、敵に見つかる。八方ふさがりとはこのことか。

「わかった。朝になったらランスロットで僕が、」

補給基地まで戻り、物資を持ってくる。ランスロットならそれが可能だというが、ジュリアスは一笑した。

「無駄だな。ここまでやったのだから、ランスロットが戻ったと解っていても、敵だとして撃ち落とすだろう」
「そんなこと」
「やってみなければわからないか?解った時にはゲームオーバーだ。大体、これを仕掛けた相手は甘い。この程度では妨害にすらならない」

ジュリアスが手元の端末を操作しながら呆れたように言った。
スザク達が個人的に持っていた端末のバッテリーは無事だったので、それらはすべて今ジュリアスの傍にある。ジュリアスは端末を使い、この周辺のデータを再度検証していたようだ。

「きみは、今の状況が分かっているのか?」
「お前たちよりはな。ところでセシル、トレーラーにおかしな仕掛けはされていなかったか?」

ジュリアスの質問に、セシルは思い出したように言った。

「そういえば、警報がセットされていたわ」
「警報、ですか?」

レドの問いに、セシルは頷いた。
どうやら指定された時間に爆音の警報が鳴るように3台とも仕掛けが施されていたのだという。なんでそんな?と驚く面々をよそに、「やはりそうか」と、ジュリアスは一人納得した。
ここは敵地にもほど近い場所、そこで爆音の警報などなれば敵が来る。
碌なエナジーのないKMF3騎が生き残る道はない。やはりこれをしかけた犯人は、殺しに来ているのだ。
やがて、ジュリアスが端末を操作する手が止まった。

「問題ない。これで、全ての条件はそろった」

誰もが絶望するこの状況で軍師は唯一人不敵に笑った。

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